今日は、Uチップ、Vチップの革靴(靴、シューズ)を取り上げます。《最終更新日: 2018年10月23日》
Uチップとは、Vチップとは
Uチップとは、甲部分にU字型のステッチ(モカシン縫い)が入った革靴のこと。基本的にはカジュアル寄りの靴でして、いろいろな考え方があるでしょうが私は積極的にはビジネススーツに合わせようとは思いません(例外もある)。
また爪先のステッチが少しとがった靴を、その形状からVチップと呼ぶことがあります。爪先の先端の縦割りのステッチも含めて、Yチップと呼ぶこともあるようです(あまり聞きませんが)。
そうそう、実は「Uチップ」は和製英語でして、英語での呼び方は以下のようにかなりバラバラなのです(詳しい使い分け方はよく分かりません)。「Uチップ」は便利な言葉だと思いますよ。
- mocc toe(モック・トウ)
- Norwegian front(ノルウィージャン・フロント)、あるいは単にNorwegian(ノルウィージャン)
- Algonquin(アルゴンキン)
- apron front(エプロン・フロント)
- split toe(スプリット・トウ)……後述する爪先の先端の縦割りステッチ入り
モカシン縫い(モカ縫い)の種類
モカシン縫い(モカ縫い)にはいろいろ種類がありまして、私もあまり詳しくないのですが以下のような資料がありました。この説明はいろいろなところで見るのですが、元ネタはなんだろ。
なお、モカシン縫いはUチップだけでなく、ローファーやデッキシューズなどにもよく見られます。
最も一般的なのが、合わせモカでしょうか(拝みモカも同様のものだと思います)。乗せモカはステッチが目立たないものが多く、比較的おとなしい雰囲気。すくいモカは見せかけのモカ縫いで、飾りモカとも呼ぶようです。
爪先の先端の縦割りステッチは、あるものとないものがあります。強いて言えば、ステッチのないものは少しカジュアル寄りでしょうか。この縦割りステッチ付きのUチップは、英語でsplit toe(スプリット・トウ)とも呼ばれます。
なお一般的に、モカ縫いがゴツゴツしたものはカジュアル寄り、モカ縫いがスッキリしたものはドレス寄り、という区別ができると思います。
各国のUチップの特徴
各国のUチップの特徴を、私なりに次にまとめてみました。
- イギリス
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紳士の国イギリスでは、やはりUチップも細身でドレッシーなものが多いのです。代表作は、やはりエドワード・グリーン(Edward Green)のDover(ドーヴァー、ドーバー)でしょうねぇ。高度なスキンステッチであるライトアングルステッチ・モカ縫いが施してあります(これは強いて言えば合わせモカの一種でしょうか)。
- アメリカ
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アメリカっぽいUチップとしては、まずゴツゴツした縫い目のすくいモカ(飾りモカ)のものが挙げられます。オールデン(Alden)のNorwegian Front Blucherとかアレン・エドモンズ(Allen Edmonds)のBradley(ブラッドレー)とか。カジュアル寄りの靴です。
それから、オールデンのAlgonquin Blucher、つまり乗せモカ仕様のVチップのような靴も見かけます。こちらはステッチが目立たないので、ややドレス寄りでしょうか。
アメリカの得意なワークシューズやデッキシューズ、キャンプモカシンのような靴にも、広義のUチップと呼べそうな靴が多いと思います。
- フランス
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フランスのUチップというと、まずはJ・M・ウエストン(J.M. Weston)のLe Golf(ゴルフ、641)や、パラブーツ(Paraboot)のChambord(シャンボー)のような、コロンとした丸いシルエットのUチップが思い浮かびます。
もうひとつの代表が、J・M・ウエストンの598(Demi-Chasse、Split Toe Double Sole Derby)のような乗せモカ仕様で少しドレッシーなUチップ。この手のUチップは、爪先の先端の縦割りステッチが長めで、エプロン部分が小さめなのが特徴といえます。
いずれにせよ、私はフランスはUチップ大国だと思うなぁ。フレンチ・カジュアル、フレンチ・トラッドには、Uチップは欠かせません。スーツにも合わせちゃう?
- イタリア
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イタリアのUチップは、モカ縫いがスクエアの(四角い)ものが多い印象があります。ストール・マンテラッシ(Sutor Mantellassi)みたいなヤツ。ローファーのモカ縫いも四角かったり。逆に、まあるいモカ縫いのヤツもあるのです。
イタリア人も、けっこうUチップがお好きなようです。
Regal Shoe & Co.(リーガル)
今の日本を代表する靴ブランドであることは間違いないであろうリーガル(Regal)は、アメリカのブラウン(Brown Shoe)社を母体に日本製靴が1961年に国内ライセンス生産を開始したのが始まりです。
Regal Shoe & Co.は、リーガルのこだわりのコレクション。昔ながらのデザインの靴を高品質でつくっています。
939Sは、足形に沿ったオブリーク・ラストという木型を採用したUチップ。ちょっとオールデン(Alden)のモディファイド・ラストっぽさも感じます。Uチップは特にポッテリ感が目立ってラギッドな仕上がり。グッドイヤーウェルト製法で、ダイナイトソール(Dainite Studded Rubber Sole)仕様。日本製です。
803Sは、サドルシューズに使われる丸っこい木型を採用したUチップ。フランス靴でいうところのGolfやChambordあたりに近い靴といえます。特に型押しのスコッチグレイン革は渋い仕上がりですねぇ。グッドイヤーウェルト製法でリッジウェイソール仕様。日本製です。
Shetlandfox(Shetland Fox、シェットランドフォックス)
シェットランドフォックス(Shetlandfox、Shetland Fox)は、おなじみリーガルコーポレーション(Regal Corporation)の一ブランド。1982年に登場し一時消滅していましたが、2009年に復活しました。リーガルの上級ブランドといえます。基本的にグッドイヤーウェルト製法で日本製。
Duke(デューク)は、クラシックなラウンドトウの木型を採用した2016年に登場のライン。コバの角を落としたヤハズ仕上げを施し、さらに伏せ縫い(ヒドゥン・チャネル・ソール)仕上げの靴底は高級感があります。056Fは、スキンステッチが特徴のDover型のUチップ。手間のかかった逸品です。
Coventry(コベントリー)は、シックなゴム底(ラバーソール)であるダイナイトソール(Dainite Studded Rubber Sole)を採用した2014年に登場のライン。雨の日にも心強いでしょう。木型は親しみやすそうなラウンドトウ。001Fは、乗せモカ仕様のUチップ。フランス系の意匠といえるでしょう。
Wheelrobe(ウィールローブ)
ウィールローブ(Wheelrobe)は、2015年に誕生した東京の靴ブランド。アメリカ好きにはグッと来る靴をつくっていると思います。基本的にグッドイヤーウェルト製法で、日本製。外鳩目仕様の靴が多いのも特徴。
Heavy Stitching Moc Toe 15078は、アメリカらしいすくいモカのUチップ。安定感のある1228という木型(ラスト)を使用しています。甲革にはアメリカの名門ホーウィン(Horween)社のクロムエクセル(Chromexcel)という丈夫な名作オイルドレザーを使用。ガシガシ履きこんでください。革底の上にラバーを貼った仕様で、かかとは靴好きにはおなじみのキャッツ・ポー(Cat's Paw)のラバーヒール。
TOMODAのパーソナルオーダー(宮城興業)
どうしても既成靴では足が合わない人や、気に入った色のものがない人は、靴屋TOMODAのパーソナルオーダーシステム、誂え靴「友郎(Tomorow)」はいかがでしょう。
甲革(アッパー)の色や素材、や靴底(ソール)の形式が選べるのはもちろんのこと、サイズもlength(足長)だけでなく、width(足囲、ワイズ)も選択できます。なんと、D、E、EE、EEE、EEEE、Fの、6種類!
注文するときにはサンプルシューズ(ゲージ靴)が送付されて試し履きができるので、通販でも安心です。製法はもちろんグッドイヤーウェルト。チゼルトウのものもありますが、オススメはラウンドトウ。非常に正統派のデザインで、長く愛用できること間違いなし!
ES-13(敏)、ES-14(栄)、ES-15(昭)は似たようなUチップですが、強いて言えばES-13はフランス風、ES-14はイギリス風、ES-15はちょいカジュアル、という感じかな。
値段についても、パーソナルオーダー(パターンオーダー)にしてはたいへん良心的だと思いますよ。
なおここのオーダーシューズは、宮城興業の工場でつくられています。靴好きには結構有名なところです。
Paraboot(パラブーツ)のChambord(シャンボー、シャンボールド、シャンボード)
質実剛健ながら上品な顔立ちの靴で定評あるパラブーツ(Paraboot)は、1919年創業のフランスの靴ブランド。
代表作のUチップであるChambord(シャンボー、シャンボールド、シャンボード)は、コロンとした顔付きでフランスの顔的存在の靴のひとつといえます。
Crockett & Jones(クロケット&ジョーンズ)のMoreton(モールトン、モートン)
実用靴の最高峰ブランドともいえるクロケット&ジョーンズ(クロケット・アンド・ジョーンズ、Crockett & Jones、Crockett and Jones)は、1879年創業のイギリスの靴ブランド。
英国のUチップにしてはカジュアル寄りのMoreton(モールトン、モートン)は、クロケット&ジョーンズの靴の中でも人気の高いモデルのひとつ。着こなしの幅も広そうです。
Sanders(サンダース)
イギリス国防省(MOD)などの制服(ユニフォーム)用の靴もつくっているサンダース(Sanders)は、1873年創業のイギリスはノーザンプトンのサンダース&サンダース(Sanders & Sanders)社が展開する老舗靴ブランド。
マジメで質実剛健な靴を得意としています。こちらのUチップは、ミリタリー用のオフィサーシューズのような雰囲気が面白いかと。
Alden(オールデン)
日本で最も人気のあるアメリカのドレスシューズブランドであろうオールデン(Alden)は、1884年創業のアメリカの靴ブランド。
Uチップも充実しているブランドでして、特にモディファイド・ラストのものに注目してください。
Jalan Sriwijaya(ジャラン・スリウァヤ、スリワヤ、スリウィジャーヤ)
ハンドソーンウェルト(ウェルテッド)製法とグッドイヤーウェルト製法を交ぜた製法を採用しているジャラン・スリウァヤ(Jalan Sriwijaya)は、もともとは1919年創業のインドネシアの靴工場だったそう。2003年に「ジャラン・スリウァヤ」ブランドが誕生しました。
この製法特有の履き心地が柔らさが、すこぶる好評です。見た目も端正で、これだけの靴がこの値段なのはインドネシアの人件費が安いからできる芸当なのでしょう。
三陽山長(山長、Sanyo Yamacho、Sanyoyamacho)の勘三郎
現在の日本の本格靴ブームのさきがけ的ブランドである三陽山長(山長)は、2000年に誕生した山長印靴本舗が母体の靴ブランド。
勘三郎は、三陽山長の代表作のひとつであるUチップ。なんと言ってもモカ部分のスキンステッチが見どころです。
他の記事も……
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追記
- (2009年8月30日)商品を追加、入れ替え。
- (2011年2月19日)2010年度秋冬最初の更新。
- (2012年9月22日)2012年度秋冬最初の更新。
- (2014年5月7日)2014年春夏最初の更新。
- (2017年9月1日)2017年度秋冬最初の更新。
- (2018年10月23日)2018年度秋冬最初の更新。
この記事へのコメント
navy
管理人さんのほどよい記事が自分には合っているようで、毎日楽しみにしております。
普段ファッション誌はまったく見ないので、管理人さんにほぼ洗脳されておりますが、自分はそこそこの格好ができれば満足できるということも、管理人さんの記事を読み込んで、いろいろ試しているうちにわかるようになりました。
ところで、ヤンコのライトブラウン、形はいいなあと思うのですが色が明るすぎて靴ばかりが目立つような気がしています。こういったオレンジのような明るい茶の革靴はあまり初心者向きではないのでしょうか?また、靴クリームで色合いを変えてみることはできるのでしょうか?
ご教授のほど、よろしくお願いいたします。
blackwatch
この手の明るい茶系の靴は、カジュアルスタイルに合わせるなら実はそんなに難しくないと考えています。より無難と思えるダークブラウンの靴のほうが、意外に地味でオジサンっぽく感じることもありますね。
とはいっても、最終的には好みや狙う着こなし次第です。
(ちなみに、アメトラでは意外にダークブラウンの靴は使わない感があります。濃い茶系ならバーガンディーがアメトラっぽい)