『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック(The Official Preppy Handbook)』については、以前何回か当ブログでも取り上げたことがあります。1980年に出版されたプレッピーについての有名な本です。
その続編が2010年に30年ぶりに登場しました。それが『True Prep(トゥルー・プレップ)』。著者は前作と同じリサ・バーンバック(Lisa Birnbach)(女性)です。そして日本語版も今年になって出版されました。
私は前作を未読ですのでおそらく本書の評者としてはふさわしくないでしょうが、私なりに軽く感想をまとめてみました。
プレッピーとは、アイビー・リーグの名門大学を目指すアメリカの一流高校に通う生徒のこと。本書では30年後ということもあり、特にその卒業生に焦点を当てています。
特に前作を読んでいない人は、巻末にある監修者の山崎まどか氏の解説から読むことをオススメします。前作はファッション・バイブルとしてもてはやされたようですが、著者はそういう意図では書いていなかったとのこと。
でも、そのシリアスな受け取られ方は、作者たちの苦笑を呼ぶものでした。だって、このアップデイト版を読めば分かると思うのですが、ねえ? これは大した歴史を持たない人々が伝統様式にこだわる様をちょっと小馬鹿にしたジョーク・ブックだったのですから。
本書でもそういう「大した歴史を持たない人々が伝統様式にこだわる様」が全開でして、ジョークだと思わなければ鼻に付く部分が少なくない内容です……。でもまあある意味本音でしょうから、アメリカの保守的なエリート層が何を考えているかが分かる内容とはいえるのかな。
ところで、プレッピーはもともとは白人でアングロサクソンでプロテスタントのいわゆるWASPの世界だったのですけど、近年は白人以外、さらには同性愛者でもOKとなっているそうな。
ファッションについて
前作はファッションで特に有名になりましたが、本書でももちろん触れています。でも、ファッションについて触れているのは全体の5分の1くらいなので、そういうことのみを期待して本書を読むとちょっと肩透かしを食らうかも。
私が印象に残ったこと記述を、ざっと挙げてみます。ちなみに、本書では男女両方についてのファッションを取り上げています。
- 「ウィットを見せびらかさない」
「Tシャツにプリントされた言葉にご注意」
- 「ブルーのブレザーを持つこと」
「必ずめいめいが、年齢、ジェンダー、性的志向を問わず」
- 男性のアクセサリー
「見栄えのよい腕時計と、アメリカ人で既婚者であれば結婚指輪。これらだけにとどめ、ほかには何もつけないこと」
- 「お高いカシミアを買うべきかしらなどと悩まない」
「プレッピーはコットンやメリノウールのセーターが大好きです」
- 「サスペンダーはボタンで留めるもの」
「クリップで留めるものはプレッピーは着ません」
- 「プレッピーは年齢を考慮した着こなしをします」
「自分のためではなく、周囲のために」 ←うまいこと言うなぁ
- 「ハーヴァード大学のトレーナー」
「あなたが、またはあなたの配偶者が、またはあなたのお子さんがハーヴァードに行っているなら着てもよいでしょう」
- 「男性はバッグを持たない」「プレッピーはパーマをかけない」
- 「トレンチコートに間違いはない」
そのほか、ローファーやデッキシューズ、リボンベルトあたりも本書ではよく取り上げられていました。
- フリース
プレッピーはとにかく天然素材の服を好むのですが、この30年でフリースもアリになったとのこと。
意外に思われるかもしれませんが、ほつれたチノパンや擦り切れたシャツなどもプレッピーなんだそうな。このへんはプレッピーというか、プロテスタント的な禁欲さ・清貧さが出ていますね。日本人が共感しやすい部分です。ラテン系の人には理解しにくいでしょう。
さらに、プレッピーは成金趣味も嫌います。これはこれで気持ちはよく分かるのですが、成り上がり者を排除する保守(反動)的な思想もちょっとうかがえるような気も。
さいごに
正直言いまして、アメリカの文化や風俗にそれなり精通していないと本書は楽しめない部分が多いと想像します。私もピンと来ない部分が多かったので、流し読みした部分が少なくありません。
逆に言うと、そのへんをよく分かった人が読めばとても面白い本なのだろうと思います。
ちなみに著者によると、プレッピーな職業というのはとにかく文系分野だそうで、理系はダメとのこと。さらには経済系もイマイチ。私は理系男子なもので、文系女子の著者とはあまり気が合わなそうだと思いました……。
いずれにせよ、(著者が前作を出した頃の年齢くらいの)イマドキの若いプレッピーは、またちょっと違ったことを考えているのではないかと想像します。ファッションにしても人生哲学にしても。
そうそう、あのトム・ブラウン(Thom Browne)も本書には登場しますよ。ブルックス・ブラザーズ(Brooks Brothers)のブラック・フリース(Black Fleece)の紹介記事において。たった1ページだけですけど。
それでは。
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この記事へのコメント
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よって、アメリカの事情を説明するにあたってこの語を用いるのはふさわしくないと思います。少なくとも、アメリカ人はそんな分類を意識しないはずです。
おそらく、訳者が日本人にわかりやすい語を選んで、そう訳したのだろうとは思います。
原文だとホワイトカラーとエンジニアとかなのでしょうかね?(ホワイトカラーのエンジニアだっているのでなんとも言えませんが)
blackwatch
私の乱暴な書き方が誤解を生むことになってしまいました。本書では文系・理系という言葉は(私が見落としていなければ)出てこないはずです。
といいますか、各職業についてとても具体的に書いてありました。ほんの一例を挙げるとこんな感じです。
「研究医師: 神様のくださった社交スキルが萎縮します。
コンピュータ科学者: だめ。
公認会計士: 本当にだめ
エンジニア: 汽車ポッポのエンジン技師ぐらいなら」
こういう傾向をひと言で表現するために、私が勝手に文系・理系(・経済系)と分類しました。文系・理系で分ける弊害やアメリカの考え方はしばしば言及されることですけど、今回の例だとこう表現することが一番分かりやすいと判断した次第です。ご了承ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E7%B3%BB%E3%81%A8%E7%90%86%E7%B3%BB
(「(日本でいうところの)文系」「(日本でいうところの)理系」といった記述にしておけば誤解を生まなかっただろうと思いました)
ちなみにフランスでは、文系と理系と経済・社会学系の3種類に分かれているそうです。
http://d.hatena.ne.jp/aggren0x/20120804/1344039313
ニンジャはいない
その敵がここでいう「理系」なんじゃないかな。
進化論とか、地動説とか、そういうの。
「理系」の反対語はクリスチャン・サイエンスとかかな。
blackwatch
「ここでいう『理系』」の「ここ」がどこを指されているのかいまいちよく分からなかったので、ちょっとお答えしにくいです。たぶん、また別の議論になると思います。
ところで、今この記事を読み直してみますと、著者の主張とプレッピーの主張を私が混同している部分があるかなと。プレッピーが理系を嫌っていても、著者が嫌っているとは限らないですね。