
今日は、グルカサンダルについて考えます。素人の考察ですので話半分でどうぞ。
グルカとは? グルカ兵とは?
まずは基本事項から。デジタル大辞林によると、グルカとは……。
ネパールの中部に住み、1768年にネパール全土を統一しグルカ王朝(ネパール王国、現在は民主共和国)を樹立した部族。以後、広くすべてのネパール人の称となった。
グルカといえば、グルカ兵が特によく知られています。やはりデジタル大辞林より。
英国軍やインド軍などに属するネパール人傭兵。勇猛さで知られ、インド大反乱で英国軍に加わり世界に名を馳せた。英国陸軍にはグルカ兵によるライフル連隊・工兵隊・通信隊・兵站連隊・旅団軍楽隊などがある。
ファッション関連でグルカといえば、グルカショーツが有名です。グルカ兵が穿いていたパンツのことで、独特な形状のウエストバンドが付いているのが特徴。
- A Short Read on Gurkha Shorts - Heddels
- Are Gurkha Trousers & Shorts Timeless, Or Just A Trend? | Gentleman's Gazette



アメリカは1975年創業のグルカ(Ghurka)という皮革製品ブランドも有名です。グルカ連隊将校の皮革製用具のすばらしさに触発されて創業したそうな。ブランド名のつづりが一般的な “Gurkha” とは少し異なります。
グルカサンダルとは?

で、ここからが本題、グルカサンダルとは?
フランスの名門靴ブランドであるパラブーツ(Paraboot)の日本代理店サイト(フランス本国直営サイトではなさそう)において、定番サンダルであるパシフィック(Pacific)のページでは以下のように説明が。日本ではこういう説明がなされていることが多いはず。
グルカサンダルは英国陸軍の傭兵であるネパール人兵士、すなわちグルカ兵がかつて履いていた革製サンダルがルーツとされています。
ただ、英語サイトを “Gurkha sandals” で検索しても、いまいちそれらしいページが見当たらないのです。いや、あるにはあるのですが、ほとんどが日本ブランドのページか、日本関連のお店のページ。“Gorkha” や “Gorkhali”、“Ghoorka”、“Nepal”、“shoes”、もしくは適当なフランス語やイタリア語で検索してみても同様の結果。
試しにBritish Newspaper Archiveにてイギリスの過去の新聞を調べてみても、やっぱり見当たらない。
さらに、グルカサンダルを履いたグルカ兵の写真や絵を頑張って探してみたのですが、これがまったく見つからないのですよ。たいていちゃんとした靴を履いているか、素足。
以下の記事にある1815年の絵では、グルカ兵が爪先のとがった変わった靴を履いていますが、グルカサンダルには程遠い意匠の靴にみえます。
グルカ兵はグルカサンダルを履いていたのか
Googleブックスで過去の書籍を検索してみますと、以下と同じ記述の19世紀の書籍がいくつかありました。前後の文から判断すると、グルカ兵というよりはグルカの一般の人々が履いている靴の説明と思われます。
これがいきなり難問でして、サンダルっぽい説明ではないのですが、簡易な靴でしょうからグルカサンダルのような靴の可能性もあります。スクエアトウとのことですから1815年の絵の靴とは別物かなと。インドの靴よりも沼地で脱げにくいとのこと。
The Gurkha shoe is square-toed, fits well up over the instep, passes just under the ankle, and then round and pretty high up above the heel. It is made of rough-looking but good brown leather, and all sewing in it is done with strips of raw hide. It is an excellent durable shoe, is not affected by water in the same way that an ordinary native shoe of India is, and it is much less liable to come off in boggy ground.
“Gurkha sandals” というそのものずばりの言葉を私が見つけたのは、比較的新しい以下の書籍の中だけ。小説のようですが、いつの話なのかな。気になる “chopplis” については、調べてもよく分かりません。
In the noise and ferment of Biashara street I bought four bright cotton kikois to use as wraparounds and from the gracious Mr Pitamber Khoda's dark narrow shop on Tom Mboya street, a pair of handmade Gurkha sandals called chopplis.
以下の書籍では、“chapplies” という言葉が出てきました。前後の内容が分かりませんが、グルカ兵が訓練時に与えられたサンダルのようです。上の “chopplis” は単なるつづりの揺れなのかも。
この書籍はグルカ兵の回顧録でして、書籍内を検索してみますと “boots” のほうがたくさん登場しますので(“sandals” はこの1か所だけ)、実戦ではブーツを履く機会のほうが多かったのではないかと想像します。
いずれにせよ、このchappliesはいかなるサンダルなのか。
We had been given a plate, a mug, chapplies [sandals], socks, two sets of underwear, shorts and a woollen cap. We trained until the end of 1934. The training was hard and took place from 0700 hours to 1600 hours.
chappliesは “chaplis” ともつづるようです。単数形はそれぞれ “chappli” と “chapli”。
以下の書籍によると、もともとは現パキスタン(当時はイギリス領インド)の北西辺境州(North-West Frontier Province)部族民のサンダルだったchaplisは、観光客やインド軍(当時はイギリス傘下)にも使われるようになったとのこと。
The North-West Frontier Province is well known for its chaplis (sandals) which are not only used by the hardy tribesmen but are actually gaining favour with the Indian army, besides tourists and hikers from every corner of the globe.
で、ついに写真を見つけました。この商品はグルカサンダルに近いといえるのでは。第二次世界大戦中のインド軍の砂漠用サンダルだったとのこと。
そしてchapplies(chaplis)は、第二次世界大戦中のイギリス軍の長距離砂漠挺身隊(LRDG)用の靴としても採用されていたとのこと。砂漠と縁のある靴だったのかな。ただ、この部隊はグルカとは特に関係なかったようにみえます(グルカ兵が参加していた可能性はあるでしょうが)。
LRDGの兵隊の写真がありまして、このchappliesもグルカサンダルっぽさがありますね。
なお、インドには古くから(?)チャッパル(チャパル、chappal)という皮革製サンダルがありまして、つづりも似ていますし何か関係がありそうに思います。デザインは一定していないもよう。
以上を踏まえ、以下のように考えました。
- インドおよび周辺地域にグルカサンダルに似た皮革製サンダルがもともと存在。
- それをイギリス軍およびインド軍が、第二次世界大戦中に主に砂漠用に採用。
- グルカ兵もイギリス軍から支給されていて、少なくとも訓練時には使用していた。
- 19世紀にグルカの人々が履いていた靴がグルカサンダルに似ていた可能性があるが、詳細は不明。
グルカ兵がグルカサンダルを履いて大活躍していた様子は感じられないのですが、履いていたのは確かだと思われます。ただ、グルカ兵がこのサンダルを履いた代表者かというと、どうかなと。
英語圏では「フィッシャーマンサンダル」か

さて、どうやら英語圏では、この手のサンダルのことをフィッシャーマンサンダル(“fisherman sandals”)と呼ぶことが多いようです(本当に漁師が履いていたかはさておき)。次点がケージサンダル(“cage sandals”)か。
イギリスの名門靴ブランドであるチャーチ(Church's)に、そのものずばり “Fisherman” という商品名のサンダルがあります。
Googleブックスなどを調べてみますと、“fisherman sandals” はファッションとしては70年代(1970年代)以降くらいから一般的に使われるようになった言葉と思われます。
そうそう、パラブーツのフランス本国の公式サイトによると、上にも登場したサンダルのパシフィックは、修道士のために50年代(1950年代)に開発されたそうな。これは漁師ともグルカとも関係がありませんね。
日本ではなぜ「グルカサンダル」なのか

学研の『メンズファッションの教科書シリーズ vol. 4 The Shoes』(2014年)には、以下のような説明が。
ところで、ネパールがイギリスの植民地になったことはありませんよ……。ネパール人に怒られそう。
イギリス植民地のネパール人兵士(グルカ兵)が履いたもので、第二次世界大戦後の1950年代に流行した。
国会図書館で「グルカサンダル」を検索してみますと、1982年と1988年の週刊宝石の記事が見つかりました。どういうデザインのものかは分かりませんが、遅くとも1982年には「グルカサンダル」という言葉は使われていたようです。
この検索機能ではファッション雑誌は対象外のようで、他にはほとんど引っかかりませんね。
「グルカサンダル」という言葉がどこから出てきたのかは、結局よく分かりません……。日本のどこかのブランドか雑誌が提唱したのかなぁ。上に挙げた “The Hanging Tree” という本に出てくるのも気になります。
昭和時代の日本のファッション雑誌を調べまくれば、何か分かるような気がします。現状ではネットでは調べられないようなので、どなたか頑張って調べてみてください……。
まとまらないまとめ
以上、長々と書いたわりには、煮え切らない内容になってしまった感は否めません。当初は「グルカサンダルをグルカ兵が履いていなかったら面白いな」と思って調査していたのですが、履いていなくはなかったようで、あまり面白い結論にはなりませんでしたね。
でも、せっかく調べたので記事にしましたよ。時間もけっこう食いましたし。
もっとも、名前がどうであれ、いわゆるグルカサンダルはシックに履けるサンダルとして便利に使えることは間違いありません。夏の着こなしに取り入れてみましょう。
それでは。
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